海底遺跡を守ろう(下)/山田文比古/保護し観光に活用を


 前回の本稿において、私は、沖縄県ないし地元自治体において、沖縄の海底にある文化遺産を保護する枠組みを条例として制定してはどうかということを提唱した。与那国だけではなく、沖縄の島々の周りには、不思議な海底地形が眠っていることが既に知られている。二万年前の南西諸島は中国大陸と日本列島とを結ぶ陸橋としてつながっていたのである。海底に何らかの人類の痕跡がない訳がない。誰が見ても明らかな人工物が海底で見つかった場合には、当面それが文化財保護法の定義からは遺跡と断定できない段階でも、きちんと保護し学術的な研究の対象とするだけでなく、規制をしながら観光資源として活用していくことが重要である。沖縄の周りの海中にある沖縄特有の文化遺産を、沖縄の人々が独自の立場から認定し、守っていくシステムを沖縄自身が作っていくことは当然のことではないか。国が何もしていない領域であるから、白いキャンバスの上に好きな絵を描くように、全く新しい発想で条例を作ればよい。こういうことを言うと、何か突拍子もないことをあおっているようにも聞こえるが、実は水中にある文化遺産を守っていこうという動きは、国際的には既に相当進んでいるのである。昨年十一月、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は「水中文化遺産保護条約」を総会での多数決で採択した。この条約は、「百年以上水中にあった、文化的、歴史的、考古学的な、人間存在の痕跡」を「水中文化遺産」と定義し、具体例として「考古学的、自然的背景を有する遺跡、構築物、建造物、人工物」や「先史学的性質を有する物件」などを挙げている。最近の海洋科学の発達により世界各地で発見されつつあるこれらの水中文化遺産を、人類の文化遺産として幅広く保護するとともに、保護と両立させながら「教育上、娯楽上の恩恵に浴する公衆の権利」も追求していこうとするもので、基本的に本稿で述べてきた方向性と軌を一にするものと言える。ここでは、水中にある文化遺産を狭義の遺跡より広く定義していることが注目される。この条約が各国の批准により発効するにはまだ時間がかかると言われているが、沖縄の海底にある文化遺産については、もはや一刻の猶予も許されない。この条約の定める水中文化遺産の定義やその保護の方法を、いわば先取りする形で積極的に取り入れ、条例化してはどうだろうか。沖縄県民の先見性と国際性を如実に示すことになると思うのだが。(元沖縄県サミット推進事務局長)


海底遺跡の保護ページ


Back